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執筆者の写真sprout

私たちには旬がある


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かくだ創業スプラウトは平成30年度より「食の創業支援」を実施し、「食」に関する創業がしやすい町づくりに取り組んでいます。角田市には豊かな食材があり、個性的で素晴らしい多くの生産者さんが角田の「食」を支えています。そんな素晴らしい生産者さんたちの魅力を皆様に伝えたい!この記事を見た方達が、この生産者の食材を食べたい!使いたい!と思うキッカケにしたい。そんな想いを伝えていくのがこの企画です。


3回目となる本企画。今回の生産者は、角田市の西根5区でこんにゃく芋を生産し、生芋からこんにゃくを作っている「楽集会」代表佐藤由美子さんです。由美子さんたちのこんにゃくは、「産直広場あぐりっと」や毎月第3土・日曜日に営業する「そば処山の内分校」の御膳の一品としても提供され大人気です。


西根5区のこんにゃく芋作りと手作りこんにゃくは、角田市の「中山間地域等直接支払制度」を使用して始まった事業です。事業開始当初は西根5区全体で事業を行なっていく予定でしたが、徐々に人数が減ってしまい、いつしか由美子さんを始めとした数人だけになってしまったそうです。芋作りの失敗などの困難が続く中、由美子さんはこれではいけないと思いました。そこで立ち上げたのが楽集会です。由美子さんは地域のコミュニティーとしての機能、参加している全ての人たちが楽しく過ごせる活動を通じて、西根を活性化させたい想いを上手に中山間地域等直接支払制度事業に乗せ、持続可能な仕組みづくりに取り組んでいます。


コミュニティーから地域を活性化させている事例は、角田市では多くありません。今回お伝えしたいことは、楽集会立ち上げの経緯と現在の想い。そしてこんにゃく作りのこだわりをお聞きすると、こんにゃくではイメージがない「旬」というワードが出現。こんにゃく作りにまつわるリアルな現場の声をお届けします。



インタビュア 牛木章裕(以下、牛)

インタビュイ 佐藤由美子(以下、由)




やりたくて始めたわけじゃない
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楽しい雰囲気で取材がスタート

牛)本日はよろしくお願いします。先日の土曜日に「そば処山の内分校」でそばとこんにゃくをいただきました。本当にどちらも美味しかったです!


由)お腹いっぱいになりましたか?言ってくれれば大盛りにしてあげたのに(笑)


牛)お腹いっぱいになりました(笑)「そば処山の内分校」もそうですが、由美子さんは現在こんにゃく芋の生産とこんにゃく作りをされていますが、以前から農家をやられていたのですか?


由)いいえ、一般企業に勤めていました。希望で早期退職をしました。


牛)農業をやりたくて早期退職したというわけですね?


由)そういう訳ではありませんでした。農業とも関係ない仕事だったので。退職した後に、西根5区で中山間地域等直接支払制度の事業をどうするかという話が持ち上がりました。それに声をかけてもらい参加しました。


牛)こんにゃく芋とこんにゃくを作ることになったきっかけは何だったのでしょうか?


由)同じ地区にこんにゃく芋とこんにゃくを作っている先輩が多くいて、こんにゃく芋は比較的簡単で手軽だったので、先輩たちに教えてもらいながらスタートしました。


牛)中間山間地はこんにゃく芋が育てやすい環境だったのですか?


由)もうね、それは難しかったです。作り始まった頃は失敗ばかりしていました。雨の影響を受けたりして腐らせてしまうことや、虫に食われてしまうこともありました。先輩から教えてもらいながら改良と工夫を重ねていきました。




集まり、教わり、休み、楽しむ
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みなさんの持ち寄りでテーブルがいっぱい

牛)由美子さんが代表を務める楽集会は、こんにゃく芋とこんにゃく作りが始まった後にできたのですか?


由)そうです、設立した時は数人でした。この事業は元々、西根5区にある婦人会などの全てのコミュニティーが参加して行う予定で始めました。しかし兼業の方もいるので、忙しいなどの理由で徐々に人数が減っていきました。こんにゃく芋もうまく作れず、人数が減っていく状況を見て、これではいけないと思ったんです。この頃には、こんにゃく芋作りに来るメンバーはいつも同じだったので、気心が知れている数人に声をかけて楽集会を立ち上げました。


牛)楽集会を立ち上げた時、どのような想いでしたか?


由)芋を上手に育てて、その芋でこんにゃくを作り、たくさん買ってもらえるといいなと思っていました。当時は、芋もこんにゃくも美味しく作る方法を先輩に教わりながら、すべて手探りでしたね。また楽集会という名前の通り、地域の人たちが楽しく集まれるような場所になるといいなという想いがありました。


牛)活動の中で特に楽しいと感じるのはどんな時ですか?


由)仕事の間にとる休憩や仕事終わりに、みんなでお茶を飲みながらお話する時間がとても楽しいです。でも休憩でお茶飲みが始まると、話が長くなってしますから大変(笑)


牛)そのような時間があるからこそ、皆さん笑顔でとても元気ですよね。


由)こんにゃく作りなどの仕事ももちろん楽しいです。こんにゃくを作るのが好きで、昔は家で作っていたこともありましたが、いまはみんなで作っているから一人では作りたいと思えないですね。みんながいるからこそ楽しく活動できています。




私たちが信じる美味しさ
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楽集会のチームワーク抜群のこんにゃく作りの様子

牛)昔失敗した経験もありながら、今では由美子さんが作るこんにゃくはあぐりっとやそば処でも美味しいと評判ですよね。


由)そば処で美味しいと直接言われると嬉しいです。あぐりっとでも作れば作るだけ買っていただけるので、本当に嬉しいですし、楽しくこんにゃく作りができています。ですが、最初は色々大変でした。そば処ではお客さんから美味しい、美味しくないの感想がすぐに聞こえてきますから。お客さんの顔を見たり、残した状況を見ながら試行錯誤していました。そして今は、こんにゃく芋不足と人不足の課題があって、色々と考えています。あぐりっとへの卸しは週に1回なので、会社みたいに1日いくらとしっかりと儲けが出ているわけではありません。会社のような仕組みなら、若い人も参加してくれると思いますが難しいところですね。


牛)こんにゃく芋不足は、どういったところに原因があるのでしょうか?


由)自分たちで生産できる量も限られていますし、昔と比べてこんにゃく芋を作っている農家さん自体が少なくなっています。私たちが生産している在来種のこんにゃく芋は、種芋が出来づらいです。それに比べて、種芋が育てやすい外来種のこんにゃく芋を作る農家が最近多くなりました。外来種のこんにゃく芋から作るこんにゃくは、在来種の芋から作るこんにゃくと比べると、味と香りと食感が少しいまいちになってしまうんですよね。

様々な問題を抱えながらも、こんにゃく作りを続けている由美子さん。次にこんにゃく作りの工程を聞いていると、こんにゃくは摩り下ろした芋に水を多く加えて伸ばせば、その分だけ量が作れるそうです。その方法なら芋不足問題の解消方法になるのでは?と思いました。しかし決してそれを行わない由美子さん。そこに由美子さんのこんにゃく作りのこだわりが見えてきました。


牛)先日こんにゃく作りの現場を見学させて頂きましたが、みなさんすごく手際よく作られていましたよね。次々とでき上がっていくのでびっくりしました。


由)その日のこんにゃく芋の状態によって作り方が変わるので、難しいです。こんにゃく作りはとても奥が深いです。そして私たちのこんにゃくは利益の少ない作り方なんです。摩り下ろした芋に水を加えて伸ばせば伸ばすだけ、量を多く作れるので、利益が出るこんにゃくを作ることができます。


牛)伸ばしたこんにゃくと伸ばさないこんにゃくはどんなところが違いますか?


由)もちろん味も香りも伸ばさない方がいいですが、一番の違いは歯ごたえです。


牛)食感が良くなるんですね。以前由美子さんのこんにゃくを食べさせていただきましが、とても弾力がある食感で、味と香りもしっかりしているので本当に美味しかったです。粉から作る市販のものと大きく違いますよね。


由)そうなんです。私たちも自分たちが作ったこんにゃくを美味しいと思っています。だから利益が少なくとも水で余計に伸ばすことはしません。私たちは伸ばさないこんにゃくが美味しいと思っているからです。




コツは“混ぜ感”
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スピード、力加減などの感覚が一番難しいという混ぜる工程

牛)一般家庭ではこんにゃく作りは馴染みがないものだと思います。どのようにしてこんにゃくは作られていくのでしょうか?


由)切ったこんにゃく芋をお湯で煮て、それを摩り下ろします。そこに適量の水を加えてしっかり混ぜます。混ぜれば混ぜるだけ粘りが出て、食感がよくなります。


牛)そして最後に石灰を入れ、手で混ぜて固めていましたよね?あれは大変ですよね。


由)そこが一番大切なんです。手早く混ぜないとムラができてダマになる部分ができてしまいます。逆に混ざっていないところは固まらず、グニョグニョで変な食感になってしまいます。でも混ぜすぎてしまうと、固くなりすぎてトロッとした食感になりません。型にも詰めづらくなり、出来上がりがデコボコになって綺麗でありません。こんにゃくは固まると重くなるので大変ですね。


牛)混ぜすぎてもダメなんですか?!とても難しい工程ですね。それほど大変で難しい作業だと、その工程を担当する人は決まっていますか?


由)そうですね。失敗するのが嫌だからやりたくないっていう人もいますから(笑)。だから混ぜる人はいつも決まっていますね。そしてこんにゃくを型に詰めて、しっかり固まったら切り分け、茹でて完成です。完成したものを真空にしてボイルしてから出荷します。真空してボイルすると衛生面でも安心できますから。でも私たちが作っているこんにゃくは添加物が一切入っていないので、消費期限は短めにしてあります。一般的には1ヶ月以上持つみたいですが、私たちは3週間にしています。


牛)確かに作り方を見せていただいたとき、余計なものは一切入れずに芋と水と石灰だけでした。そう考えると物凄く自然で健康的な食べ物ですね。

由)こんにゃく芋を育てる時も、農薬は使わず、肥料も少ししか使わないのでその面でも安全です。その代わり畑に大きな虫が現れるんです(笑)。それが凄く嫌なんです(笑)。火挟で取って回っているんですよ!


牛)由美子さんは農家出身ではないので耐性がないのでしょうね。ちなみに私も虫が大の苦手です(笑)。




私たちの旬
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今が最盛期のこんにゃく作り

牛)原料のこんにゃく芋の収穫はいつ頃ですか?


由)10月頃になります。芋不足の影響もあり、夏はこんにゃく作りをお休みするので、この時期を楽しみにしてくださるお客様もいるので嬉しいです。


牛)本当に美味しいこんにゃくですから、10月を心待ちにしている方は大勢いますよね。


由)10月に収穫するので、今の時期は本当に美味しいです。お客様みんなから「手作りのこんにゃくには旬がある」と言われます。休む期間があっても10月になると「楽しみに待ってたんだい」と言われると本当に嬉しいです。


牛)こんにゃくに旬があるとは驚きました! ということはお客様にとっても、由美子さんにとっても10月は嬉しさと楽しさが満天の時期ですね!私はすでに来年の旬になる10月が楽しみです!





 

<後記>


取材が終了して、少し雑談をしていると「こんにゃく作りはまだまだだね〜」とお話しする由美子さん。由美子さんには目指している味があります。それはこんにゃく作りを教えてくれた先輩の味です。こんにゃく作りは材料と作り方自体はとてもシンプルな分、長年の経験で培った感覚的なものが重要になってきます。一筋縄ではいきません。由美子さんは早期退職後にこんにゃく作りをはじめて、今では15年経ちました。ものつくりの職人としては、もしかしたらまだ短い年月なのかもしれません。しかし由美子さんには確かなこだわりがあり、本当に美味しいこんにゃくを作っています。それでも自分の仕事に妥協せず向上心を持って活動していることや、楽集会を通じ地区を活性化させていることは本当に価値あることだと感じました。


現状では、人不足と芋不足の課題から継続していくことの難しさが存在しています。この課題の話を聞いた時、私は「無くなってほしくない」と素直に思いました。ですが同時に楽集会の場が羨ましくなりました。私にとってはまだまだ先の話ですが、自分が年齢を重ね退職した後、楽習会のように気心が知れている人たちと楽しく仕事ができ、社会と接点を持ちながら、自分が少しでも地域に貢献出来る場所があったら幸せなことだと思いました。今回の取材を通して、定年後でも楽しく活動して社会に貢献できる仕組みを自分たちで作れるんだということを、由美子さんから教えてもらいました。

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今回取材させていただいた佐藤由美子さんのこだわりが詰まったこんにゃくは、同じ西根地区にある産直広場あぐりっとでお買い求めいただけます。ですが私は親和会と楽集会が協力して運営しているそば処山の内分校で、そばとこんにゃくをダブルで楽しむのがオススメです!そば処山の内分校は毎月第3土・日曜日に営業しています。皆様、毎月第3土・日曜日は美味しいそばと美味しいこんにゃくを食べながら、家族や友達と「楽」しく、「集」える時間をお過ごしください。



Writer profile

牛木章裕。東北学院大学4年在学。veeell Inc.インターン生。愛称はあっくん。Youtubeホーム画面のおすすめ動画は、ほぼ乃木坂46の動画で埋まるほどの乃木オタ。「乃木坂48」と間違えて言われると、上司相手でも説教をしてしまう。

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