かくだ創業スプラウトは平成30年度より「食の創業支援」を実施し、「食」に関する創業がしやすい街づくりに取り組んでいます。角田市には豊かな食材があり、個性的で素晴らしい多くの生産者さんが角田の「食」を支えています。素晴らしい生産者さんたちの魅力を皆様に伝えたい!この記事を見た方達が、この生産者の食材を食べたい!使いたい!と思うキッカケにしたい。なかなか触れる機会がない生産者さんのストーリーを、伝えていくのがこの企画です。
今回取材をお願いしたのは、角田市北郷地区で190年にわたり米作りを続けている面川農場株式会社(以下、面川農場)の面川大明さん(以下、面川さん)です。面川さんは4年前に東京からUターンした角田の若手生産者の一人。 面川家19代目の父、義明さんとともに米作りを通じて地域農業の発展に寄与されています。今回の取材では、代々続く面川農場のルーツ、生産物の特徴に加え、今後の面川農場のお話しをたっぷり伺いました。さらに、地域農業を担っていく存在である面川さんの将来の展望や夢についても迫りました。
インタビュア:舟山直道(以下、舟)
インタビュイ:面川大明(以下、面)
面川農場のルーツ
舟)本日はよろしくお願いします。 まず始めに、190年続く面川農場のルーツについて教えてください。
面) 私の祖先が角田市北郷地区で文政9年(1827年)に農業を始めてから190年になります。実は、先祖は石川家(※1)の家臣です。
舟)それは驚きです!
面)角田市の長泉寺に牟宇姫(※2)のお墓があるのですが、隣に面川家のお墓もあるみたいですね。 祖先が角田市内から北郷地区に引っ越し、農業を始めたのが面川農場のルーツになります。 私の父が19代目で、私でちょうど20代目になる予定です。何事もなければですが(笑)。私自身は4年前に就農し、そのときに面川農業株式会社として法人化しました。
舟)栽培品目はずっとお米だったのですか?
面)基本的にはお米ですね。あとは大豆や麦になります。
舟)なぜお米だったのですか?
面)角田市全体が平野地なので、主に地形や立地の部分が理由だと思います。また、うちでは技術面でも先進的なことをしてきたのが特徴です。角田市内でいち早く耕耘機やトラクターを取り入れてきましたし、水田を利用した大豆の栽培など、試験的なこともいち早く行っています。
※1「石川家」とは、伊達家一門の家格を持つ名家。明治維新に至る14代270年間、城下町の建設、産業振興など、近代角田の基礎を築いた。
※2「牟宇姫」とは、角田石川家3代目当主、石川宗敬公へ嫁いだのが伊達政宗公の次女。
米作りのポイントとやりがい
舟)次に、米作りの大事なポイントを教えてください。
面)一番大事なことは「田んぼを荒らさない」ということです。主に雑草ですね。簡単に言うと、田んぼを耕作放棄地にしないということです。毎日の水管理などは気を付けています。今は昔に比べて、田んぼを見る人が少なくなったと言います。田んぼを見ていないと水管理ができません。そうすると雑草も生えてくるので、田んぼは必ず見るようにしています。
舟)どのぐらいの周期で田んぼを見るのですか?
面)一番重要なのは田植えが終わったあとですね。そのときに除草剤を撒くのですが、それから一週間から10日が大事です。水の管理をきちんとしていれば、除草の層ができるので、田んぼが荒れることは基本的にないです。逆に、その時期に水がなくなると除草の層ができずに、田んぼが雑草で荒れてしまう原因になります。
舟)農業や米作りにおいて、どういう所にやりがいを感じますか?
面)自分の行動が、作物の出来にダイレクトに影響するところですね。自分がきちんと管理すれば良いものができるし、怠れば悪いものができてしまいます。また、食糧生産は社会的に大きい問題なので、責任感がある仕事だという点にやりがいを感じています。
舟) 面川農場はお米をJAに卸さず、小売りしている特徴がありますよね。小売りの面白さはどういうところですか?
面)お客さんの反応を直に見れる部分ですね。東京でお米の試食販売をしているのですが、自分が作ったものを食べてもらい、その場でリアクションをもえることは単純に嬉しいです。
舟)一番分かりやすいですよね。
面)その場で直接購入してもらえると、純粋にうれしいです。あとは良くも悪くも、色々な意見をもらえるので、それが米作りのモチベーションになりますね。
舟)具体的にどういった意見や声があるのですか?
面)先日東京銀座の三越でお米の試食会をしました。わざわざ会場に足を運んで、お米を購入する人は、お米にこだわりを持っている人たちです。好みのお米がはっきりしている人もいれば、高くても美味しいお米が欲しい人など、購入者自身がお米を選ぶ明確な基準を持っていることが多いですね。また、東京の取引先が、他の米と一緒に面川農場の米を販売する機会がありましたが、うちのお米の方が他のお米よりも評判が良かったみたいで、うれしかったです。
大切な環境作り
舟)面川農場の特徴の一つとして、田んぼの中にカブトエビ(※3)がいるそうなのですね?
面)田んぼにカブトエビが出てきたのはここ数年ですね。うちで使っている有機質肥料が他の肥料と比べていいみたいですね。
舟)どのようにカブトエビが寄ってくるんですか?
面)乾燥しないと羽化しないみたいですね。今の農業は低コストで、経費を抑えようと肥料も必要な養分を省いてしまい、最低限必要なものだけにしているんです。うちは値段が高くても、必要な養分を含んでいる有機質肥料を使っています。田んぼに豊富な有機質があるので、カブトエビや自然の生き物が寄ってきやすい環境なのかなと。
舟)カブトエビが生息すると、何かいい影響はありますか?
面)カブトエビが動くことによって土煙が上がるので、それが除草効果になるんですよ。単純に環境の良い証拠になります。以前は友好都市である東京都目黒区の米穀組合と、カブトエビがいるお米として売り出していました。売り手目線では、いい環境で育ったお米として、客観的に評価できます。
舟)他の田んぼでは見かけませんよね?
面)数件の米農家で角田うまい米研究会という活動をしています。そこではうちが使っている有機質肥料と同じものを使用しています。所属している農家さんの田んぼでも、カブトエビが出ることがあります。面川農場では、10年ぐらい前から有機質肥料を使用し、カブトエビが出たのが5~6年前です。
舟)ずっと良い肥料を使い続けて、土が良くなって、カブトエビが出る環境になるということですね。
面)肥料は使い続けることで、土が変わっていきます。やはり土づくりが一番大事なポイントですね。父親や先輩農家さんもそう言っています。カブトエビが出てきたら、田んぼがいい環境になったという証拠ですね。
※3「カブトエビ」はミジンコに近しい甲殻類の生き物。田んぼの雑草を食べたりするほか、水底の 泥をかき混ぜることで水が濁り、日光が遮られ雑草の発芽と成長が抑制されることから「田んぼの草取り虫」と呼ばれている。
誰かがやらなくては
舟)面川さんは4年前にUターンし、実家の農場に就職して今に至ります。農業をしようと思ったきっかけは何でしょうか?
面)学生の頃は農業をやろうと思っていませんでした。東京に就職し、家を出たときに、絶対に農業を手伝いに戻りたくないと思って東京に出ました。ところが、最初のゴールデンウイークの時に帰省したときに、無性に田植えがしたくなったんです!(笑)今になると、どこかで農業が好きな部分があったのではないかと思います。このままでは後継者がいなくなる状況でした。そう考えたとき、面川農場では地域を担っているような規模でやっているので、うちが田んぼをやらなくなったら、この地域はどうなるんだろうと思ったんです。これは誰かがやらないといけないと思ったのがきっかけですね。
舟)お手伝いではなく、本格的に農業とやろうと思ったときに、ギャップはありませんでしたか?
面)すごくありましたよ。田植えのシーズンは、働いている実感があるんです。季節限定で従業員を雇いますし、体も使いますし。でも、田植え以外は、農業はとても地味なんですよ。種まきの準備もそうですし、一人でコツコツとやる作業が多いです。それが少し地味だな~と(笑)。先輩の従業員さんから、片付けの作業が多いので、農業は仕舞う仕事だと教わりました。これだけ仕舞う作業が多い業種は他にないですね。その点が少しギャップを感じました。それでも、田んぼの中に出て、自然の中で仕事するのが、自分に合っているのかなと思います。
舟)家族からの反応はどうでしたか?
面)喜んでいたと思いますよ。やっぱり家族も後継者がいないのはまずいなと、考えていたと思います。周りの人からもよく帰ってきたねという声もあり、やっぱり農業は社会的責任が大きいと感じました。
舟)農家として4年目になりますが、難しい部分はどんな所ですか?
面)自分が管理する面積が増えるにつれて、自分の技術向上も求められてきています。今まで通りに管理するか、それとも、やり方自体と変えるという可能性もあります。次に、設備が追い付かない事も課題です。年々の管理する農地の規模が増えているので、田植え機やコンバイン、作業場の拡大などの設備投資をしなければいけません。そうしないと既に頭打ちが見えているので、作業が回らなくなります。今まで10町歩しかやっていないところが倍になったら、それはキャパオーバーになるじゃないですか。それを見越して設備投資などをしていかないと。単純に田んぼを集めれば稼げるかといえば、そうではありません。
地域を守り、継続していく
舟)面川さんは、これからの面川農場を担っていく存在になると思います。今後の展望や夢を教えてください。
面)この地域を守っていけるような農業をしないといけないと思っています。地域をまとめて、この地域を継続していける事業をやらないといけません。
舟)農業で稼ぐということも含めてですね。
面)収入的意味もありますし、経営面をいいますと、正直な話、お米だけやっている農家はなかなか利益が出ないんですよ。これからは利益をきちんと出していかなければ、会社としても継続していかないと思います。そうした事業モデルを確立しないと、日本全体の農業も疲弊していく一方だと思います。経営という視点で農業をやっていきたいですね。
舟)若い人達の仕事の選択肢の中に、農業を入れていきたいですよね。
面)ニュートラルな学生からも、農業を選択してもらえるようになったらいいなと思います。逆にそうならないと、尚更農業をやる若い人はいなくなると思います。農業の離職率は6割もあるみたいですね。今後、会社として農業をやっていく上で、会社としての福利厚生や、会社としてのビジョンが問われると思いますね。他の業種と比べても、魅力的に写る経営をしていかないといけないと思います。
舟)実際に農業で利益を生むために、具体的な考えはありますか?
面)一番は経営規模を大きくすることですね。米の品質と生産コストを下げるというのも方法の一つですが、面川農場は違います。肥料などにコストをかけているので、そうした部分がお客様からの評価につながっています。今までのやり方を継続しつつ、品質の良いものを作り、経営的に黒字を継続していくことが目標です。その仕組みを考えるのは難しいですが、地域でずっと継続できる農業を目指したいと考えています。
舟)本日は長時間ありがとうございました! 目標に向かって挑戦していく面川さんの今後が楽しみです。同じ世代として私も負けずに頑張ります!
<後記>
今回は面川農場の面川大明さんに話を伺いました。実は、面川さんと私は中学校時代の部活動の1年先輩・後輩の関係なのです。あれから約15年が経ち、こうして仕事でお会いすることになるとは思ってもいませんでした。仕事の内容は違えど、生まれた場所、地域に対して行動している姿はとても刺激になりました。
昨今、農業を始めとする第一次産業では、担い手不足、後継者不足などのニュースを耳にします。若手生産者の一人として、現在の日本の農業の現状についてどう思いますか?とお聞きしたところ、とても前向きな言葉が返ってきました。
「日本の農業の現状は悪くないです。楽しいです。マイナスイメージが業界にありますが、そんなことはないです。自分で考えて作業できるので、そこが一番の魅力だと思います。米を作るにしても、野菜を作るにしても、どこに売るのも自由なので。そういう意味では農業は面白いし、やりがいがあります。」
その一方で、角田市の農業はこのままではいけない。どこかで変わらないといけない。と話す面川さん。この地域の農業を支えてきた先祖の想いを受け継ぎながら、経営面での改革も視野に入れ、地域の農業を次のステージへと発展させていかれると感じました。
そして、今年も秋口になると面川農場で栽培した新米が販売されます!
ぜひ面川農場のお米を食べてみてくださいね!
Writer profile
舟山 直道。veeell Inc.マネージャー。
野球とバスケ好きな小ネタ王子。推しメンは角田市出身の楽天イーグルス熊原 健人選手。
写真が趣味で、スポーツ写真や風景写真を撮影してSNSに投稿!写真を日々勉強中。
2018年に角田市でメディアに出演している数が最も多いTVスター(自称)
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