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あぐりっと直売所

更新日:2020年3月9日


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かくだ創業スプラウトは平成30年度より「食の創業支援」を実施し、「食」に関する創業がしやすい街づくりに取り組んでいます。角田市には豊かな食材があり、個性的で素晴らしい多くの生産者さんが角田の「食」を支えています。素晴らしい生産者さんたちの魅力を皆様に伝えたい!この記事を見た方達が、この生産者の食材を食べたい!使いたい!と思うキッカケにしたい。なかなか触れる機会がない生産者さんのストーリーを、伝えていくのがこの企画です。


今回取材をお願いしたのは、角田市西根地区で新鮮野菜直売所「産直広場あぐりっと」 (以下、あぐりっと) の代表を務める堀米荘一さんです。堀米さんは地元で畜産業を営む傍ら、あぐりっとの経営者としての顔もお持ちです。今回の取材では、あぐりっと設立のルーツを始め、今後の農業・直売所経営の展望、地元に対する想いについて伺いました。農家として、経営者として、想いが詰まった内容となっています。


インタビュア:舟山直道(以下、舟)

インタビュイ:堀米荘一(以下、堀)




自らの販売チャネルを持つ
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角田市西根地区にある産直広場あぐりっと

舟)本日はよろしくお願いいたします。あぐりっとは2008年2月に12人の専業農家の方々が出資して設立されたそうですね。その背景について教えてください。


堀)自分たちで何とかしていかなければいけない時代になったという危機感がありました。


舟)というのは?


堀)まず始めに、角田市のまちづくりの歴史があります。戦後、これからの角田市のまちづくりを進める上で、当時の角田市長と角田市農協の初代組合長が協力して作ったコンセプトがありました。それは、 零細で小規模だった農業を合理化し、近代化を進めて、農業と工業の両方でこの地域を豊かにしようというコンセプト です。市役所と農協が手を取り、戦後の角田のまちづくりを進めました。当時のまちづくりのモデルが成功して、今までずっと来ています。


舟)そのような歴史があったのですね。


堀)しかし、時代の流れの中で、角田市農協が仙南地区の1つの農協として合併してしまいました。合併した事により、この地域の農業だけをやっていく農協ではなくなってしまったのです。我々農家は、農協に頼らず、自分たちで何とかしなければいけない時代になったという危機感を覚えていました。そのため、12人の専業農家が手を取り、自分たちで販売していくチャネルを作りたいというきっかけから、あぐりっとが設立されました。


舟)どのように人を集めて、まとめたのですか?


堀)角田市農協青年部の活動が活発だったので、青年部組織の中で声を掛け合いました。角田の全地域から、設立に賛同して出資するという農家が 12人集まりました。私は役員として参加しました。


舟)あぐりっとが設立された事によって、生産者やこの地域に、どのような変化がありましたか?


堀)角田の農産物を販売する窓口ができた事で、ここに来れば角田の農産物が購入する事ができる”角田の顔”になれたと思います。昨年に道の駅かくだ(※1)ができましたが、それまでは市内に直売所がありませんでした。 特に角田市出身で、現在は仙台に住んでいる方などから、角田の農産物や加工品を購入できる場所として非常に喜んでもらえているという声をよく耳にします。


舟)今年で設立12年目を迎えますが、経営面でどのような部分を心がけていますか?


堀)設立時の目的は、自分たちは農業で飯を食べていくです。そのためには、農業経営の足しになる直売所にしたいというコンセプトがあります。まずは継続した経営をしていく事です。加えて、生産者や農産物の情報の発信の場であり、あぐりっとに来ると、色々なものが手に入る、交流できる場でありたいと思っています。


※1「道の駅かくだ」は、2019年4月に角田市に新たにオープンした道の駅のこと。




直売所は品質が命
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毎日、地元農家さんの新鮮な野菜が並ぶ直売所

舟)農産物や加工品、最近はランチも営業していますが、あぐりっとの一番の特徴はどんな所ですか?


堀) 専業農家の方が多いというのが、あぐりっとの一つの特徴ですね。最近の直売所は、お年寄りの方の小遣い稼ぎのような直売所も多いのが現状です。売れればいい、値段も気にしないといった部分です。でも、実はそれがあまり良くないんです。価格破壊も起こしますし、品質も悪くなります。


舟)確かにそうですよね。


堀)あぐりっとの場合は、専業農家が多く、他にも生協、農協、市場に出荷している方が多いです。そのため、お客様に対して、品質が良いものを提供できると思います。その代わり、他の直売所と比較して、値段が高いと言われる事もあります。

舟)道の駅よりも、あぐりっとの方が良いという声も聞きます。 お客様から求められる事としては、どのような事がありますか?


堀)直売所に農産物の種類と量をもっと増やしてほしいという声がありますね。売り場的にも、もう少しボリュームがあるといいのかなと思っています。


舟)現在はどのくらいの農家さんが出荷しているんですか?


堀)今は60人ぐらいです。米、野菜、手芸品などですね。


舟)今後の課題としては、どのようにしてお客様を増やしていくかという事ですか?


堀)最近は、あぐりっとの周辺にも直売所が増えてきました。白石市や山元町に店舗面積の広い直売所や、角田市にも道の駅が出来ました。競争が厳しくなってきているので、その中をどういう風にして生き残っていくかが悩ましい部分ですね。




生産者のストーリーを乗せた加工品
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一つ一つ手作りでこだわった加工品

舟)2014年7月に加工場が設立されましたが、どのような経緯があったのでしょうか?


堀)季節によって、店頭に並ぶ野菜が限られるという問題が当初からありました。それでもなかなか大きな設備投資に踏み切れずにいましたが、一番大きなきっかけは、東日本大震災です。風評被害で客足が減り、生鮮品だけ並べるだけでは難しくなりました。風評被害を払拭するのは非常に難しくて、必死に理屈を説明すればするほど、相手が引いていくのがよく分かるんです(笑)もう本当にこれは大変なんですよ。そういった苦しい思いをして、みんなでどうやっていくべきをもう一度考えました。その時に風評に負けない魅力あふれる楽しい直売所にして、お客さんに来てもらう他ないという考えに至りました。その対策のひとつとして、加工場を造ろうとなりました。

舟)加工品をつくる事によって、季節による農産物のラインナップに左右されずに、通年で商品を売れる事もメリットになりますよね。


堀)一次加工や二次加工して商品化する事によって、お客様が食べやすくなりますよね。お客さんの近くに寄り添っていく努力が必要だと感じています。今の社会情勢では、食材だけを店頭に並べるだけでは厳しいと思います。お昼前に来てくれるお客様も、すぐ食べれるものと、夕食に使う野菜を購入して帰られます。そういう事をしたかったんですね。


舟)そういった対策が風評被害の払拭や、新しいニーズに繋がっていったんですね。


堀)そうですね。


舟)加工品を開発する上で、大切にしている事は何ですか?


堀)加工品で角田の農産物のストーリーを発展させたいという風に思っています。実際に生鮮品だけでは差別化がしにくい部分があります。私が作った白菜も、別な人が作った白菜もそんなに違いはありません。でも、その白菜を使って美味しい漬物ができれば、○○さんの白菜を使用した漬物ですよという事で、もっと消費者の近くでアピールできるストーリー性のあるものができると思っています。最初に作ったのが、玉手さんという市内の農家さんのお名前を付けたかぼちゃプリンです。生産したものがきちんと商品になっているので、農家にとっても嬉しいと思いますね。そうする事で生産者の方にも作る喜びを感じてもらえればと思っています。


舟)加工品の中で開発するのに一番難しかった商品は何ですか?


堀)商品開発のときは、専門家を呼んで指導してもらいました。しかも一流の方々です。こんな事をいうのはまずいかもしれませんが、一流の専門家に教えてもらったすぐの時期が一番美味しく作れます(笑)製造スタッフが入れ替わるので、味を維持する事が課題ですね。その道で生きていく決めた専門家の作る味と、教えられて作る加工場のスタッフの品質を一致させるという作業はとても難しいと感じています。


舟)加工品を外販はしないのでしょうか?


堀)今のところは考えていません。多品種少量生産なので、どうしてもコスト高になるので、外販向きの商品ではないのが現実です。


舟)商品を開発する品目は、堀米さんから提案されるのか、スタッフの方からの提案があるのか、どちらでしょうか?


堀)これまでは私がアイディアを出す事が多かったですが、最近はスタッフからもアイディアが出てくるようになりました。もっともっとスタッフから提案があるといいですね。


舟)加工場はあぐりっとでどのようなポジションを担っていきたいですか?


堀)看板ですね。看板倒れにならないように(笑)




農家と経営者の違い
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農家と経営者の違いについて説明する堀米さん

舟)堀米さんは、あぐりっとで直売所の経営、加工場、畜産、農業の4足のわらじを履かれていますよね。これって凄いことだと思うんですが、4足のわらじを履く事でのご苦労や、やりがいを教えてください。


堀)90%が苦しみです(笑)


舟)想像もできないですが、本当に大変ですよね。


堀)家と牧場とあぐりっとと田んぼを毎日ぐるぐる回っています。あっちに行って怒られ、こっちでも怒られ、どこに行っても頭の痛い事ばかりです(笑)でも、やってみないと分からない事がいっぱいあるんです。実際に自分がやってみて、観てる側と実行する立場では、こんなにも違うものかという事が良くわかりました。農家をしているだけでは、人を組織して、事業を展開していくという難しさが分かりませんでした。結局、事業を運営できないと、何もできないという事が理解できました。農家に専念していたら、何か上手くいかない事があれば、人のせいにしたり、農協や行政、社会のせいにすれば済んでいました。人を組織して、事業を運営していくのであれば、それは許されません。何が何でも解決していかなければなりません。そういう厳しさが初めて分かりました。


舟)そういった厳しい環境の中で、事業を継続してこれた要因は何でしょうか?


堀)こうやって10年以上営業してこれたのは、設立時のコンセプトが間違っていなかったという事だろうと受け止めています。やり方を改善した点やまだ対応出来ていない点もありますが、少なくとも設立の趣旨を多くの方にご理解いただいていますし、支持を頂いているので、何とかもっと発展させたいと思っています。



次世代へ農業を継承するために
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次世代へ農業を継承するために、定期的にイベントを開催している

舟)長時間のインタビューありがとうございました。最後に、今後の展望や挑戦したい事を教えてください。


堀)やりたい事というより、やらなきゃいけない事に日々追われています(笑)野望としては、そういう状況から逃れたいです(笑)以前からみんなが心の中にある事だと思いますが、農業をやろうという人を増やしたいです。特に農業に関心がある若い人を呼び込みたいと考えています。


舟)あぐりっとがきっかけになるといいですよね。


堀)そうですね、地域おこし協力隊(※2)の採用も視野に入れて考えています。


舟)事業継承といいますか、農業の継承も兼ねてですよね。


堀)都市との交流や情報発信も大事ですが、ここに来て住もう、ここで農業をやろうという人を増やす事が最終的なゴールかなと思っています。製造部門は、誰が担っていくかがとても大きな問題です。地域おこし協力隊に関しては、製造の分野で一緒にやっていけたらと考えています。


舟)あぐりっとさんの事業自体が、まさに地域おこしですよね。


堀)地域では農家の高齢化が進んでいるので、農家が将来消滅してしまう可能性があります。この10年で状況が大きく変わると思います。ですので、この10年で次の時代に繋がる取組みが出来たところが、10年後には大きなチャンスを掴めるだろうと思います。何もしなかったところは、10年後には打つ手が無くなるはずです。この10年で次の時代が担えるような、若い人材を少しでも集められればと思っています。


舟)様々なアグリビジネス系のセミナーを積極的に受講されていますが、次世代の農業の人材育成を考えているのでしょうか?


堀)それもありますが、経営セミナーとして私が勉強しているというのもあります(笑)でも、アグリビジネスに関心がある若い人たちはいるんですよ。地域に根差して、農業を基盤にしたビジネスを展開していく事に、関心がない訳ではないんですね。それを地域で形にしていければなと考えています。


舟)あぐりっとを経営していく事で、農業をする人を増やすきっかけを作っていくという事ですね。


堀)それが夢ですね。


舟)本日は長時間ありがとうございました。ご協力頂いたおかげで、超大作になりそうです(笑)


※2 地域おこし協力隊とは、 都市地域から過疎地域等に移住し、地域協力活動を行いながら、その地域への定住・定着を図る総務省の取組のこと。




 


<後記>


今回、あぐりっとの代表を務める堀米荘一さんに話を伺いました。堀米さんは、本文で紹介したように、農家と経営者の2つの顔を持ちます。農業に携わりながら、直売所の代表として経営をこなす事は本当に大変な事だと感じます。90%が苦しみと言ってましたが、その中でも10年以上続けてきているのは、設立時の目的である「自分たちは農業で飯を食べていく」という目標があるからだと思います。自分たちがその目標を達成できれば、次世代へ事業継承や農業継承に繋がるという気持ちがあるのかもしれません。


堀米さんは、最終ゴールはここに来て住もう、ここで農業をやろうという人を増やす事と仰っていました。そのためには、農業で生計を立てる事はとても大切になりますよね。移住者を増やす、かつ、農業従事者を増やすという、とてもハードルが高い目標に思えてしまうかもしれませんが、大切なのはまず自分たちでやってみる事だと思います。本文でも堀米さんが仰ったように、やってみないと分からない事が沢山あります。実際に自分がやってみて、試行錯誤し、トライアンドエラーを積み重ねしていく事が、夢実現に向けての一歩になると思います。私も堀米さんのように、傍観者ではなく、実践者でありたいと強く思いました。


最後に、あぐりっとでは、毎日新鮮な農産物や加工品を販売しています。休日・祝日には収穫祭等のイベントも実施しています。ぜひ足を運んでみてくださいね。

イベント情報等は下記Facebookをチェックください。


Writer profile

舟山 直道。veeell Inc.マネージャー。

野球とバスケ好きな小ネタ王子。推しメンは角田市出身の楽天イーグルス熊原 健人選手。

写真が趣味で、スポーツ写真や風景写真を撮影してSNSに投稿!写真を日々勉強中。

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