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勘と経験からの脱却

更新日:2019年8月11日


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かくだ創業スプラウトは平成30年度より「食の創業支援」を実施し、「食」に関する創業がしやすい町づくりに取り組んでいます。角田市には豊かな食材があり、個性的で素晴らしい多くの生産者さんが角田の「食」を支えています。そんな素晴らしい生産者さんたちの魅力を皆様に伝えたい!この記事を見た方達が、この生産者の食材を食べたい!使いたい!と思うキッカケにしたい。そんな想いを伝えていくのがこの企画です。


今回取材させていただいたのは、角田市で養鶏場を経営する、鶏肉の生産者さん(※1)です。この鶏肉は、駅前に店舗を構えますRestaurant&bar Panchで角田産鶏肉「レッドウォーカー(※2)」として提供され、美味しいと大評判の鶏肉です。今回はそのレッドウォーカーのこだわりを聞きました。しかし取材が進むと、話題の中心は「経営」にシフトしていきました。今までの取材の中でインタビュー時間の半分を経営についてお話していただいたのは初めてでした。今回はレッドウォーカーの畜産家としての顔、経営者としてのビジョンも丁寧にお伝えしたいと思います!


(※1)諸事情により、お名前の記載を控えさせていただきます。

(※2)レッドウォーカーはPanchでの登録名です。



インタビュア:牛木章裕(以下、牛)

インタビュイ:レッドウォーカー生産者(以下、レ及び文章中では生産者さんと表記します)




レッドウォーカー知っていますか?
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鶏舎内を自由に動き回るレッドウォーカー

牛)本日はよろしくお願いします。さっそくですが、レッドウォーカーという名称はやはり鶏の見た目が赤いところからきているのでしょうか?


レ)そうですね。ちなみにこの品種の鶏を飼育しているのは、東北6県の中で角田養鶏場だけです。


牛)東北唯一ということは飼育方法に特有の難しさがあるのですか?


レ)配合の種の付き方が他と違いますね。


牛)東北地方を見渡しても珍しいレッドウォーカーですが、どのような特徴がありますか?


レ)スーパーなどで売られている一般的な鶏肉は生後40〜50日で出荷され、地鶏だと80〜150日で出荷されます。それに対して、私のレッドウォーカーはその中間くらいの60~70日で出荷しています。


牛)飼育期間が60~70日で出荷するレッドウォーカーは、他の鶏肉とどのような違いがありますか?


レ)レッドウォーカーは脂身もあり、ジューシーでコクがあります。赤身の部分はもちもちとした食感で、一番の特徴は臭みがないことです。


牛)臭みを無くす要因はなんですか?


レ)まず餌の種類とあげる方法が大事です。餌を入れる容器があるのですが、それを成長に合わせて、ちょうど鶏の胸の高さに置きます。下を向いて食べさせると、頭に血が上ってしまいストレスの原因となるからです。そして餌の配合も重要です。飼料が大切になってきます。そして飼料の中に抗生物質や合成抗菌剤は一切入れません。但し、鶏も病気にかかります。それは基本的に渡り鳥からの鳥感染で発症します。仮に私の養鶏場で感染した場合、その半径3~10㎞にある養鶏場の鶏を全て殺処分することになります。その為に、環境整備等を重要視しております。




A級への道のり
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自然の中にあり、衛生管理が行き届いた鶏舎

牛)餌の配合で、鶏肉の美味しさや安全性にも関わってくるのですね。次に鶏の飼育方法について教えてください。


レ)鶏の飼育で一番大事なのは「ストレスを与えない」ことです。鶏はストレスを感じると成長しづらく、身に血液が充満してしまい、肉質が悪くなってしまいます。ストレスの有無が肉質に大きく影響し、ランク付けにも影響します。


牛)鶏肉にもランクがあるんですか!?


レ)A級とB級に分かれており、肉質が良いとA級で、ストレスで血液が充満しているとB級になってしまいます。養鶏場では、1000羽出荷すると約1%の10羽程度はB級とランク付けされてしまいます。そのB級のお肉を販売することはありません。


牛)では、A級の鶏肉を生産するためにはどのようなことが重要なのでしょうか?


レ)私の養鶏場の生産方針は「自然に近い形で育てる」ことです。解放鶏舎という方法で飼育することで、鶏は鶏舎の中を自由に動き回れます。そして鶏舎についているカーテンを開閉できるようにしているため、鶏舎内の温度が暑ければカーテンを開けて風を通してあげるなど、できるだけ自然に近い形で飼育しています。そして鶏舎の周辺環境も大切です。鶏舎の周りに木を植えてあります。これで自然な木陰ができるわけです。そして木の間から流れてくる自然の空気を通してあげることも大切ですね。


牛)養鶏場の写真を見ると本当に綺麗な自然の中で飼育されていますね!


レ)もっと細かいこだわりを言うと、石灰を撒いた床の上におがくずを敷きます。木の温もりと一緒ですね。鶏が大きくなってきたら籾殻も敷いてあげます。


牛)籾殻は断熱効果もありますからね。


レ)籾殻の断熱効果もそうですが、鶏の成長過程に合った温度で管理しています。夏の熱い日は扇風機を回します。でも鶏は風が当たることが嫌いでストレスを感じてしまうので、ちょうど頭の上を通るように風を流してあげます。冬の時期になると、大きなバーナーを24時間焚いて鶏に最適な温度を保っています。


牛)24時間焚いているとものすごい経費になりますよね?


レ)でもそれがあるからこそストレスが少ないのです。また温度を一定に保つ理由がもう1つあります。それは鶏の圧死を防ぐためです。鶏は寒いと一箇所に固まる習性があります。鶏が密集した場所が広がると、その後に来た鶏は、その集団の上に重なるように固まります。そうすると、下の鶏が潰され圧死してしまいます。だから鶏が一箇所に固まらず、鶏舎内にパラーと広がっているのが理想の状態です。


牛)環境が均一であることが大事なんですね。




畜産家として、経営者として
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鶏舎の中にはストレスなく健康に育つ工夫がたくさん

牛)生産者さんは、養鶏場経営をお父様から継いで三代目となりますが、先代から受け継いでいる部分や変えていったところはありますか?


レ)先代の親父は一人で養鶏場を経営、運営していましたが、一人では限界があると思っています。現在は私を含めた3人でローテーションしながら鶏の飼育をしています。以前と大きく違うのは、情報共有をしている点です。昔はそういうのは何もなかったのです。管理表や管理体制、管理マニュアルも全部作りました。加えて環境整備も進めました。私の養鶏場は綺麗だと自信を持って言えます。やはり養鶏場にお客さんが入って来たときの印象はとても大事だと思っています。


牛)三代目として様々な変化を起こしているのですね。今後の展望や目標はありますか?


レ)養鶏場の経営はある程度「勘と経験」がものをいう職人さんみたいな仕事なので、数値化が難しいです。しかし私はそれを「数値化」したいと考えています。畜産家や農家は良いものを作るだけでなく、その仕事が生活の種であり、お金になるわけです。私が周りの農家の人たちに話を聞くと、儲からないというお話を聞くことがあります。しかしなぜ儲からないか?何が原因なのか?と原因究明するところはとても少ないです。どんぶり勘定なんですよね。そうでなくて、「一羽にかかるコストをしっかり計算する」ことが大事だと思ったのです。だから数値化したいと考えました。


牛)生産者さんのように畜産家でありながら、経営に対しても詳細な項目にわたってお考えになっている方は、まだまだ主流ではないかと思います。他に経営者として大切にしていることはありますか?


レ)経営者としては、鶏を商品として見るようにしています。私の養鶏場は12棟の鶏舎があり、一棟ごとに3500羽の鶏が入ります。私はその一棟ごとに育成率(※3)というものを見ます。例えば3500羽の雛が鶏舎に入りました。それが成長し、出荷するときに出荷数が決まります。飼育期間中に死んでしまったりして出荷できない鶏もいるわけです。次の加工する段階で品質チェックを行い、A級品として出せる数が決まります。ここでB級品はその数から弾かれてしまうわけです。それらを総合的に計算し、悪い時で3500羽に対しての育成率が80%〜90%になります。以前には3500羽に対して600羽分の鶏が商品にならないことがありました。ただし、この600羽分が無くなってしまう過程が重要です。経営者として考えれば、餌を60日間も沢山食べて出荷できなかったら大赤字になります。そうなると体が弱いなどの問題を抱えた鶏は、最初から淘汰したほうが合理的な訳です。しかしこのことをお客様に説明すると「可哀想」と言われることがあります。しかし私が生産した鶏肉はお客様の口に入ります。皆さんの体のことを考えると、体が弱く健康でない鶏が育って食べられるよりは、元気で新鮮な鶏肉を食べた方が絶対に良いです。そう説明すると、お客様も「そうだね」と納得してくださいます。


牛)畜産家として愛情を持って育てることと、消費者のことを考えることのバランスはとても難しいことですよね。消費者はお肉の状態でしか判断できないので、そこの思いを理解する機会がないですからね。


レ)そこで絶対に忘れていけないのが「美味しいものを作る」ことが最終的な目標であることです。合理的に育てることが目標でも目的でもありません。また、美味しい物を作る為には、生産者と消費者の情報共有を大切にします。消費者の感想と提案を元に育成方法及び餌改良等にも取組んでおります。


(※3)雛(ヒナ)を育てて成鶏(大人の鶏)に成長させるまでの過程で、病気等で死亡した鶏を除いた割合をいう。




畜産業の見える化

レ)経営というものは自分だけでできなくても、信頼している部下や仲間がいればできると思います。その従業員たちにも生活があります。生きるためにはお金が必要ですからね。そのために、事業計画書などをしっかりと作成し説明しています。


牛)生産者さんが先ほどおっしゃったように、養鶏場の仕事を「数値化」することで、説明しやすいことも多くなると感じます。


レ)それに加えて私は、養鶏場をIOT(※4)化したいと考えています。畜産家でIOTって聞かないでしょ?(笑)


牛)確かに聞かないです(笑)


レ)IOTの良いところは数値化と一緒で「見える化」できることです。鶏がどのような状態か、気温はどうなっているかなど、膨大なデータを取らなければなりません。しかしデータを蓄積していくことで「この気温の時は、このような行動をしてください」とマニュアル化することができます。それでもケースバイケースの時もあると思います。その時は、勘と経験で仕事をすることも必要な時もあります。但し、職人と言えども人はいつ仕事を辞めるか、病気や事故にあってしまうか分かりません。IOTのデータを元に作ったマニュアルがあれば、不慮の事態があったとしても、まだ経験が浅い従業員だけでも養鶏場を運営できる仕組みが作れればいいなと思います。「この人がいないとできない」という時代でもないと思います。最終的には、美味しい物を継続提供の為です。


牛)正に現代的な考え方ですね。


レ)でもこの計画はまだ全然進んでいません。私の想いだけですね。


牛)生産者さんが考えていることは素晴らしいことだと感じます。IOTはこれから社会として必ず必要になっていくものだと思います。生産者さんの養鶏場がどのように進化してくかとても楽しみです。本日は長時間ありがとうございました!


(※4)"Internet of Things"の略。モノのインターネットと訳す。モノがインターネットに接続され、情報交換することにより相互に制御する仕組みである。




 


<後記>



今回私は、レッドウォーカー生産者さんを「畜産家」として、取材をしようと思っていました。こだわりを持ちながらレッドウォーカーを育てている姿は、畜産家そのものです。「将来の展望や目標はありますか?」と質問をした際には、鶏の飼育についての答えが返ってくると思っていましたが、そこからは経営の話になりました。消費者から見る畜産家や農家の姿は、良い物を作る職人さんというイメージが強く、経営者として捉える人は少ないと感じます。消費者によっては経営やお金の話をするとあまり良い顔をしない方もいると思います。しかしレッドウォーカー生産者さんは、自分がお金儲けしたいから経営について深く考えているわけでないと気がつきました。生産者さんが経営のことを話している時は、従業員さんのこと、そしてお客さんのことを考えながら、お話していることが伝わってきていました。「美味しいものをこだわりを持って作る」それは間違いなく大切なことです。しかしそれだけで、生産者さんや従業員の生活が崩れてしまうのは、あってはならないことです。良いものを作ることを「持続」させていくことに対して経営力というものは大切なものだと学びました。




Writer profile

牛木章裕。東北学院大学4年在学。veeell Inc.インターン。愛称はあっくん。Youtubeホーム画面のおすすめ動画は、ほぼ乃木坂46の動画で埋まるほどの乃木オタ。「乃木坂48」と間違えて言われると、上司相手でも説教をしてしまう。

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