【食ing DAYs】DAY5レポート
12/15に【食ing DAYs 】DAY5がGomboppaで開催されました!
ゲストとして「株式会社仙台秋保醸造所」代表取締役の毛利親房様をお招きしました!毛利さんは震災をきかっけにご自身でワイナリーを設立され、現在は宮城の食のPR事業も行い、多岐に活躍されています。ご多忙な毛利さんのお話を角田市で聞ける貴重な機会となりました!
【食×人と風土】
東北各地には世界に誇れる人・食・風景・文化があります。食を語る際に、本来は食のベースにある「人と風土」。しかしそれを知る機会というものはなかなかありません。その「人と風土」を関わることで、食にまつわるストーリーを楽しむ豊かさが得られます。地域で生み出される食にまつわるストーリーを体験できるプロジェクトを、毛利さんは立ち上げました。そのお話を中心に、食と人と風土が交わる価値をお伝えしていきたいと思います。
ワインの産業をつなぐ力
まず始めに、毛利さんがご自身の秋保ワイナリーでの実践を通して、ワイン産業の大きな可能性について考えられている事があります。ワインには「人と人、人と地域、地域と地域」を繋ぐ力があると話す毛利さん。加えて、農業、商業、観光等の様々な産業と関わることができるので、それらの産業を繋いでいく力がワインにはあります。また食以外にも工芸品や音楽、文化とも連携がしやすいとのこと。このワイン産業が持っている力を生かすために秋保ワイナリーで一番力を入れているのは、地元の工芸品を生かしたワインと食のマリアージュのPRです。
秋保だけでなくワイナリーが複数できると、ワインツーリズム(※1)というものができます。ワインが有名な国では観光客が沢山訪れ大きな経済効果が生まれています。加えて、ワインは食との繋がりがとても強く、ワインは食べ物と合わせることでより楽しめます。宮城県が食材王国である利点を活かしながら、宮城県ならではのツーリズムを作り、宮城県の食を情報発信していこうと考えました。またツーリズムのテストツアーを行った際に、アンケートを取ると、日本人、外国人問わず「食べ物と合わせたい」という声が非常に多かったそうです。毛利さんはワインツーリズムをワイン一本で勝負するのはまだ自信がないと言います。毛利さんのご尽力もあって、現在宮城県内のワイナリーは4つに増えました。ワイナリーが増えることはツーリズムにとって必要不可欠なことですが、日本のワイン名産地の山梨県や長野県と比べると、まだ歴史が浅いというハンデあります。そこで、毛利さんは宮城県の食材を生かした「日本で一番食べて感動するワインツーリズム」を目指して奮闘されています。
※1 ワインツーリズムとは、ワイン産地をめぐる旅のことで、欧米では盛んな旅のスタイルです。ワインツーリズムでは、ワインの産地を回りながら、ワインの造られた郷土の料理やワインを楽しんだり、ワインの生産者たちと話をしたりなどします。
ワイナリーを立ち上げる
そのワインツーリズムの拠点となる「株式会社仙台秋保醸造所」の代表取締役である毛利さんですが、実はお酒がほとんど飲めません。なぜお酒が飲めない毛利さんがワイナリーを立ち上げたのか。きっかけは忘れることのできない東日本大震災です。
毛利さんの前職は建築設計の会社で、ワインとは全く無関係でした。震災前に「女川駅湯ぽっぽ」の設計を担当していました。震災が起こり、女川駅湯ぽっぽの被害調査をするため女川町を訪れると、町は壊滅状態。あの時、「この状態から本当に復興できるのか」というのが誰もが心に抱いた不安だと思います。しかし毛利さんはそこで立ち止まりませんでした。様々な復興会議に参加し、様々な復興計画を提案しましたが、当時の被災自治体は緊急の課題の対応に追われ、新しい産業を興す余裕がなく、結果的にはどの被災自治体にも採用されることはありませんでした。それでも、毛利さんは考えた復興計画のなにかひとつは実現したいという強い想いがありました。そこで、民間の自分たちの力で新しい産業としてワイン産業に可能性を見出し、取り組み始めたのがワイナリーのプロジェクトだったのです。
ところが、震災の被害で、宮城県に唯一あった山元町のワイナリー「桔梗屋」がなくなってしまいました。そのため、県内にワイン作りのノウハウというものが一切無く、加えて宮城県には根本的なブドウの生産量の少なさも課題にありました。毛利さんは宮城県のワイン産業の復活のため、最初は県内唯一のワイナリーがあった山元町に試験的にブドウの木を植えました。しかしその当時は、毛利さんはまだ建築のお仕事をしていたこともあり、定期的にブドウの世話をすることができない状況でした。加えて、津波による塩害の影響で、ブドウの生育が上手くいきません。また、津波の被害によりワイナリー「桔梗屋」で犠牲者が出ていたこともあり、再び犠牲者が出てはいけないと、山元町の被災した方々から強い反対にあいました。そのため、プロジェクトを一度断念せざるをえませんでした。しかしここで諦めたら一生後悔すると思った毛利さんは、塩害の問題や農地の確保など計画をゼロから見直し、ブドウが育ちやすい条件が揃っている内陸の秋保でワイナリーを立ち上げました。
テロワージュ東北
毛利さんが今まさに推し進めているのが「テロワージュ東北」というプロジェクトです。このプロジェクトは、東北の食のマリアージュを世界に情報発信していき、「東北を食べて周る旅の提案」をしていくものです。その発端は毛利さんが主催するワイン会でした。ワイン会では、ワインはもちろん宮城県の食材も提供し、マリアージュを楽しんでもらっています。会の特徴として、生産者やシェフの方もワイン会もお招きしています。席に着くと、どうしてこの魚が美味しいかを語る漁師さん。震災を経験した漁師さんは、その苦労話や家族を亡くしたお話をする方もいるそうです。その話を聞きながら、ワインと食材のマリアージュを味わうと、涙を流すお客様がいるそうです。しかしそれは悲しみの涙ではありません。美味しさに感動したり、感激したり、感謝の気持ちで涙を流しているのです。
毛利さんは、この素敵な空間で素晴らしいお話を聞けることを、ワイン会に参加している数十人でしか共有できないことが勿体無いと考えました。この素敵な話を多言語に訳し、世界中の人々に共有してもらい、その食材や料理を直接現地に食べに来てもらう。最高のマリアージュを楽しんでもらおうと「テロワージュ東北」を立ち上げました。
ここで皆さんは「テロワージュ東北」の「テロワージュ」ってなに?と疑問が生まれていると思います。皆さんがご存知ないのは当然かと思います。「テロワージュ」は毛利さんが考えた造語だからです。フランス語で気候、風土と人の営みを意味する「テロワール」というワイン業界では世界共通の言葉があります。それと皆さんにも馴染みのある「マリアージュ」を掛け合わせ生まれたのが「テロワージュ」という言葉なのです。
究極の美味しさは産地にある
毛利さんは「究極の美味しさは産地にある」とお考えです。産地に行くからこそ、新鮮なものを食べることができます。生産者の方に出会えます。実際の生産現場を見ることができます。また、その土地の風景も楽しむことができ、文化にも触れることができます。この究極のマリアージュに、毛利さんはそう名前をつけました。この「テロワージュ東北」のプロジェクトは、毛利さんのご尽力もあって宮城県だけでなく、東北6県で行うプロジェクトとして現在は進められています。先ほどお伝えしたワイン会のようなストーリーが生まれる拠点を、東北6県で発掘していき、東京オリンピックの2020年までに3600拠点作るのが毛利さんの目標です。
例えば、同じ地域でチームを組み、日中は現地の食材を集めるツアー(漁体験や収穫体験など)を行い、夕方にはそれらの食材を地元の飲食店に持ち込み、調理してもらい、食べていただくプランです。このような拠点を作っていくのは毛利さんではなく、地元の「テロワージュ東北」に参加したい!と手を挙げた各地の有志の方々です。実現には多額の資金が必要になります。そのために毛利さんは、このような小さなテロワージュを立ち上げやすくするためのクラウドファンティング(※2)パッケージを準備しています。「テロワージュ○○(○○に各地の名前が入る)」立ち上げに必要な資金面とPRも兼ねてクラウドファンディングでバックアップし、各地でテロワージュが加速していく仕組みを考えています。その手順として、まず「テロワージュ〇〇」を考えてください。私の場合だとテロワージュ角田ですね。次に返礼品として先ほどのような地元を周れるツアーを考えてください。この2つを考案したら、クラウドファンティングの煩雑な手続きはすべて事務局で行いますよ、というものです。
毛利さんは、このように東北6県が一丸となって行えているのは、震災があったからこそだと思っています。震災後、被災三県は多くの物を失いました。しかし、青森県、秋田県、山形県をはじめとした、沢山の地域から応援をいただきました。そのお陰で「みんなで一緒になって頑張ろう」と想いが強くなった今だからこそ、取り組めるタイミングだと毛利さんは感じています。
私の周りの友人は「角田には何もないね」と言います。私も最初はそう思っていました。しかし株式会社veeellでのインターンで、角田市の様々な生産者さんを取材させてもらいました。その中で、「この食材はすごい!」と感動することが多々ありました。そう感じることが出来たのは、角田の気候風土のなかで最適な生産方法でつくられ、直接顔を合わせながら生産者さんの想いを受け取っていたからだと思います。こういった体験が毛利さんが仰る食・人・風土の織り成す営みの豊かさなのだと実感しています。風土がない街など一つもないのです。それを発掘できていないだけです。それを人の力で見つけ、磨き上げ発信し、その豊かさを多くの人と共有できる社会は素晴らしいと思います。現に参加者の方もワクワクしながらテロワージュ○○を語り合っていました。 テロワージュは本来は身近にあるものだと思います。その食と人と風土の営みを楽しむことができるためには、そういった視点を持つことができてこそです。ぜひ、皆さんも食にまつわるストーリーを楽しむ豊かさを、日常でもお楽しみください。ちょっとした感動のある日常を。
※2 不特定多数の人が通常インターネット経由で他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うことを指す、群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語である 。
ご講演後、毛利さんのご好意でワインの試飲会を開いていただきました!秋保ワイナリーの美味しいワインに受講者一同大喜びでした!その中で毛利さんが受講者の皆さんに「AKIUSHA」というレストランで、テロワージュ〇〇というイベントを定期的に開催しています。テロワージュ角田のイベントを行いたいので、テロワージュ角田を考えた方はご連絡ください!」とここでもまた毛利さんは笑顔で仲間を集めていました。ぜひ東北の方は「テロワージュ角田」や「テロワージュ地元」を考えてみてはいかがでしょうか!
秋保ワイナリーやテロワージュにご興味ある方は、毛利さんの秋保ワイナリーのウェブサイトをご覧ください♪
http://akiuwinery.co.jp/
次回2019年1月12日(土)DAY6のゲストには、「株式会社都市設計」取締役ブランディングディレクターの氏家滉一様をお招きします!氏家さんは主に東京と仙台において、まちづくりのグランドデザインや地域資源を生かしたブランディング、企業などの企画プロデュース等、多岐に活躍されています。特に、仙台では食と遊びで未来を志向する実験広場「EKITUZI」をプロデュースし、コンテンツとして「食」を生かし、人が集まる「場所」を実現されています。氏家さんが話す「食」と「場所」のいろいろを、ぜひご堪能ください!!
詳細は以下のリンクをご覧ください♪
https://www.sprout-kakuda.com/blog/shokking-days-day6
Writer profile
牛木章裕。東北学院大学4年在学。veeell Inc.インターン生。愛称はあっくん。Youtubeホーム画面のおすすめ動画は、ほぼ乃木坂46の動画で埋まるほどの乃木オタ。「乃木坂48」と間違えて言われると、上司相手でも説教をしてしまう。
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